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Works — Case

反射ではなく、選択で動く。

成瀬様(取締役COO) エグゼクティブコーチング(6ヶ月)

コーチの村上(右)と、取締役COO 成瀬様(左)
課題
思い通りにならない現場に、つい感情をぶつけてしまう。反射的な反応のパターンが、立場を変えても繰り返されていた。
アプローチ
6ヶ月のエグゼクティブコーチング。「あるべき経営者像」の一般論ではなく、「自分はどうありたいか」という固有の問いから、自己認識を一つずつ言語化。
変化
「反射」から「選択」へ。マネージャーが主体的に動く組織へと変わり、生産性(利益率)の改善・売上増加につながっていった。

はじめに

「強いリーダー」の像は、もうひとつではなくなりました。ぐいぐい引っ張る人もいれば、静かに聴く人もいる。時代が速く、読みにくくなるほど、「自分はどんなリーダーでありたいか」を問い直す経営者が増えています。本稿で紹介するのも、その問いから始まった、ある取締役COOの6ヶ月です。

好奇心と、手つかずの課題感

メガベンチャーで働き、転職後事業責任者をご経験、現在は取締役COOを務めておられる成瀬氏がコーチングを始めた動機は、まずは好奇心。そして潜在的な課題感でした。

「コーチングを受けたことがある人の多くが『良かった』と口にする。その事実は以前から認識していました。しかし、自分を高めるための行動として、コーチングを受けることには、これまで積極的ではありませんでした」

理由は明確でした。それは「自分の中で、課題感を明確に持てていなかった」から。しかし今回コーチからのオファーを受けた際、成瀬氏にまた別の考えがよぎります。経営者として、ひとりの人間として、課題がないかと問われれば——ありました。

「思い通りにならない状況に対して怒りを感じてしまう。仕事で『あの言い方をしたくなかった』と後悔するシーン。これまでの人生で、何度も繰り返されてきたパターンがそこにありました」

これまで気にはなっていたが、手をつけられていなかった課題が、そこにありました。結果的にこのコーチングを経て、マネージャーが主体的に動く組織への変化が生まれ、生産性(利益率)の改善や売上増加といった成果につながっていきますが、意外にも立ち上がりはスローペースでした。

コーチング開始も、順風満帆ではなかった

コーチングの第一回、第二回では最初の壁に直面。成瀬氏は振り返ります。

「自分の本当の課題を、人に言語化することの難しさを痛感しました。自分の欲求や、悩みをありありと他者に開示するのは、得意なことではありませんでした」

さらに、もともと知人関係であるコーチに本音をどこまで開示するか。この時間をどう活用するか。そうした「模索期間」がありました。自己開示も課題の言語化も煮え切らない。この状態では、変容への道筋が見えてこない。

転機は、2 回目のセッション終盤に訪れました。2 つの認識が、成瀬氏の内面で同時に起きたのです。

1 つ目は、主体性の確立。誘われて始めたコーチングではありましたが、その中で成瀬氏が自らに問うたことがありました。

「せっかくコーチがしっかり時間を取ってくれている。この時間は誰のために存在するのか。甘い自己開示で時間を過ごしても、もったいない。意味がない。そう気づきました」

2 つ目は、関係性の変化です。ここではコーチからの言葉がきっかけとなりました。「もし私との関係性がやりづらければ、今後プライベートでの付き合いは解消し、コーチとしての関係だけで関わることもできる」。この言葉を聞いた瞬間、成瀬氏の何かが変わりました。

「コーチの覚悟を感じたことで、自分ももっと自分に向き合おう、という意欲が湧いたのです」
自らの課題に向き合う成瀬様

「どういう人間でありたいか」への答え

3 回目以降、テーマは大きくシフトしました。「あるべき経営者とは何か」という一般論から、「自分自身はどういう人間でありたいか」という、より自分固有の問いへ。

「どういう人間でありたいか。それは、経営者としてのありたい姿の本質にも繋がります。しかし今の自分は、そこからかけ離れていることを、認めざるを得ませんでした」

成瀬氏は、自分の「嫌な部分」を、一つひとつ言語化していきました。その課題は、具体的な場面で現れます。

「会社では、事業が良い状態で前に進むことを目指します。しかし予期しないオペレーションミスやトラブルが日々発生する。それはビジネスでは当たり前のこと。ただ問題は、その頻度。たまにではなく、文字通り毎日トラブルが起こっていたのです」

そのたびマネージャーたちに対して、「なんでそうなっているのか」と突き詰めてしまう。原因を探求し再発を防止したい。もっと言えば、緩いオペレーションが「許せない」という感情に支配されてしまう。経営者である自分自身が十分な組織オペレーションを構築できていない、という責任も自覚しているからこそ、自分自身に嫌気が出てしまう。

「起きている事象に対して、苛立ちを感じてぶつけてしまっている自分。それが、最も自分の嫌な部分でした」

その根源には、ある願いがありました。従業員には「この会社ではたらいていた時間は自分の人生にとってこの上なく良い期間だった」と思ってもらいたい。その願いの、逆の行いをしてしまう自分への苛立ち。

「思い出してみれば、新卒入社した会社で新人教育をしていた際も、同じような行動パターンで関係が悪化した経験があります。いま経営者という異なる立場になり、異なる課題に直面し、また同じパターンが再現されたことに気がつきました」

立場や環境は変わっても、根本にあるマインドセットや思考パターンは変わっていなかった。この認識が、コーチングの中で浮き彫りになりました。

「コーチの村上さんと話していると、時々自分でも“なんでここまで話しているんだろう”と思うことがあります。そしてその自分の話を、村上さんから客観的に問われると、見ないようにしていた自分の弱さが目の前に浮かびます。もちろん居心地が悪いのですが、それ以上に、その弱さを乗り越えたいという気持ちが強く出てくるのは面白い体験だなと感じました」
コーチングセッションの様子

「反射」から「選択」へ。短期だけでなく、長期も。

コーチングの中で自分の嫌な部分に気づいた後、会社の現場で同じことが起きたとき、何が変わったのでしょうか。

「もちろん簡単に変わったわけではありません。まず反射的に『なんでこうなってるの?』という疑問や苛立ちが湧き起こる。ただ、自分の状況に客観的に気づけるようになったことが、最初の変化でした」

もうその場で問い詰めることはしない。代わりに「理由や背景がどうなっているのか、急いでないので、後で教えてください」と落ち着いて言えるようになりました。それに応じて社員も、より冷静に、建設的な対応をとるようになったそうです。

「自分の発言が、行動が基点となって組織が変わっていく。これが最も明確な変化でした」

しかし成瀬氏は、単に感情的反応を抑えるだけではまだ満足していませんでした。原因を追求したくなる「嫌な自分」の鋭い視点を、前向きな仕組みづくりに転換したのです。

「短期で起きている現場の問題が起きない仕組みを、正しい心と冷静な頭で構築する。そうして短期の問題が起きる回数が減ると、自然と未来のことに思考が向くようになった。『みんながもっと才能を爆発させられる環境をどう作っていくか』という長期的な問いに、より頭が向くようになったのです」

短期と長期の両立。単なる感情コントロールではなく、組織マネジメントとして一段視座が上がるきっかけとなりました。

変化について語る成瀬様

成瀬氏のコミュニケーションの変容は、組織に 2 つの大きな変化をもたらしました。

1 つ目の変化として、マネージャーからのメッセージが自発的で意思が乗るようになり、批判や失敗を恐れない空気が出てきました。より思い切った発言や提案をするようになったのです。マネージャーが自ら仕事を作り出す。主体的に動く。メンバーを新しい仕事に巻き込む。組織全体が進化していく好循環が生まれていました。

2 つ目、成瀬氏自身の「短期に揺さぶられず長期の構築へ」という思考の変化は、組織全体の思考パターンにも影響を与えました。マネージャーの思考が、「自分(個人)の問題」ではなく「仕組みの問題」を捉える方向にシフトしたのです。組織の実力が積み上がる方向に、全員のエネルギーやリソースが向くようになり、それは生産性の改善や売上向上などの経営成果として現れていきました。

「最終的に、自分の変化が組織をどんどん強くすることを実感しました」

成瀬氏の人生哲学

組織に起きたこれらの変化は、偶然ではありません。それは成瀬氏自身が大切にしている人生哲学が、コーチングを通じた自己変容と実践によって、組織に具現化したものでした。成瀬氏が人生哲学の基盤としているのは、エーリッヒ・フロムの『愛するということ』。5〜6 年前から、この本をバイブルのひとつとして折に触れ読み返しているそうです。

「事業は何のために存在するのか。月並みな言葉かもしれませんが、社会のためだと考えています。しかし、もっと本質的な言葉で表現するなら、『世の中への愛、お客様の成功への願い』で存在している」

フロムによれば、一人の人間だけを愛することができて、他人を愛せないということは、両立しない。成瀬氏は、この理論を経営に適用します。

「だから仲間を大事にすること、愛することができる、そういう自分でありたい。実際今も、従業員みんなのことが大切です。経営者として、ひとりの人間として、心からそう感じています」

コーチングを終えてしばらく経ち、あらためて振り返った成瀬氏の中に、一つの大きな気づきが生まれていました。

「自分という人間の器を広げることが、人生の永遠のテーマではないかと、この 1 年で強く感じました。コーチングで、自分の弱い部分に目を向ける。改善して前に進む。それが結局、人生で自分が目指していることなのです」

それを受けて、コーチが自身の考えを共有しました。「私にとって最もしっくりくる表現は、『含んで超える』という言葉です。過去の自分を排除せず、より大きく受け止められる自分になる。弱い自分を受け止められれば、他者も受け入れられる。そうすれば、感情や思考にとらわれず、もっと自由に行動できる」。成瀬氏はその考えに共感しながら、こう展開しました。

「そのためにも、まずは会社を成功させなければならない。長期的に利益を出し続ける。従業員にとって、この会社を選んだことが最善だったと思えるようにしたい。みんなを大事に思っているというのは、会社を成功させる覚悟も含んだものです」

成瀬氏が描く「メンバーの人生における成功」は多面的です。経済的な成功、プライベートの前進、学習と成長。それぞれの面で、みんなの人生が前に進んでいってほしい——そう語ります。一方で成瀬氏は、冷静に振り返ります。

「もしこの 1 年が、『みんながすごく変わった』『会社が変わった』という話だけなら、理想的だったかもしれません。しかし現実にはもっと違うレベルで大変なこともありました」

組織変革の過程では、離職や休職も発生しました。そうした事象も含めて、学んでいった 1 年だった。

「いまは焦らない。その人の良さも、自分が見えていないだけかもしれない。焦らずに、一緒に良い関係、良い連携ができるようにしていくことに、フォーカスを当てています」

結論:反射ではなく、選択で動く

本稿では、経営者がエグゼクティブコーチングを通じて自らの内面と向き合い、リーダーシップスタイルを変容させた過程と、それが組織にもたらした変化を記述してきました。重要なポイントは以下の通りです。

  1. 具体的な課題の言語化:抽象的だった課題を、具体的な認知・行動パターンとして言語化
  2. 行動の変容:反射的な反応から、選択的なコミュニケーションへの変容
  3. 組織への影響:マネージャーのエンゲージメント向上と、システム思考の強化
  4. 人生哲学の成長:フロムを基盤に、「含んで超える」というリーダーシップ観の成長
「自分を大きくすることは、人生の永遠のテーマかもしれません。すべては、自分との向き合い方なのです」

経営者として、組織の成長を願いながら。同時に、一人の人間として、自分自身と向き合い続けながら。反射ではなく、選択で動く。その一つひとつの選択が、組織を動かしていく。

最後に成瀬氏に、コーチングがおすすめできる経営者について伺いました。

「一定規模の組織を抱えている経営者です。組織人員が 30 人、50 人、100 人と大きくなるにつれてマネージャーやリーダーが増えていく。自分の一挙手一投足の影響が大きくなるにつれて、コーチングの価値はより高まります。採用基準や制度設計などのハード面は必須です。ただ、ハードにどんな魂を込めるのか、どう運用するのか。自分のマインドや考え方が試される時に、コーチングが活きるイメージです。」
「それから、事業や組織をより成長させたくて、そのためには自分自身の変革が必要だとお考えの経営者の方。事業は順調に成長しているものの、これ以上の成長を実現するために、何か必要なものがあると感じている。そしてその原因を自分事でとらえられ、自分自身の実力やリーダーシップを変える必要があると考えている方です。」

編集後記:コーチの目線から

「つい、現場を問い詰めてしまう自分を直したい」——多くのリーダーから伺う悩みです。しかしその鋭さこそ、事業を支えてきた原動力であることも事実です。そして「反省」の名の下に、自分の一部でもある品質へのこだわりを「ダメなもの」として切り捨てるのは、最善ではありません。

今回のセッションで成瀬さんが成し遂げたのは、こだわりを「感情的な反射」ではなく「組織を動かす仕組み」へと昇華させる、自分自身のアップデートでした。過去の自分を否定せず、むしろその力を新しい形に変えて再起動させる。この「自己変容」の体験が、組織にどれほどの熱量と静かな進化をもたらしたか。この記事が、日々葛藤しつつも、さらなる高みを目指すリーダーの、次の一歩へのヒントになれば幸いです。

成瀬様(左)とコーチの村上(右)
成瀬様(写真左)、エグゼクティブコーチ 村上永晃(写真右)

その行き先を、ともに。

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